関西人Yeni.の横から失礼します。vol.26

2022.04.01Naviコラム

今回は趣向を変えて、芸能ニュースである。先日行われた第94回アカデミー賞受賞式をご覧になっただろうか。今年は授賞式の生中継中に大事件が起こったので、ご存知の方も多いと思う。ハリウッドきっての人気俳優ウィル・スミスが、長編ドキュメンタリー賞プレゼンターであるコメディアン、クリス・ロックを舞台で張り倒したというお話だ。なぜそんなことを？それはクリスが主演男優賞候補ウィルの妻であり女優のジェイダ・ピンケット・スミスに対して放ったジョークに対し、ウィルが怒りのあまり客席から舞台へ上がり平手打ちをかましたというもの。どんなジョークが？以前から脱毛症に悩んでいたジェイダはとうとう丸坊主にし、その頭で授賞式に出席していたところから話は始まる。ところで、黒人の方々は後頭部が張り出して、なんと頭の形が良いのだろう。彼女の丸刈りも綺麗でカッコよく、私など思わず見とれてしまったのだが。私がやったら完全にお寺のお坊さんやな。南無〜。ジェイダを始め、ハリウッドの黒人女優たちは元々の美しいカーリーヘアを無理に直毛に矯正したりと髪へのダメージがかなり深刻なようだ。それが原因か、脱毛症で髪を失いつつあったジェイダは思い切って髪を剃り落としたらしい。そのジェイダに向かって、クリスはかつてデミ・ムーアが丸刈りになって演じた女性兵士の映画『G.I.ジェーン』を引き合いに出して、「ジェイダ、『G.I.ジェーン』のパート2楽しみにしてるよ！」とのたまった・・・要らんこと言うたな。

私はこの顛末の動画を何度も観たが、このまずいジョークを聞いて最初ウィルはゲラゲラ笑っていた。一方妻のジェイダは顔をしかめて困惑した表情に。その数秒後、突然ウィルがズカズカと舞台に上がっていって、綺麗な（失礼、しかし本当に映画のように綺麗に決まったビンタだった）平手打ちをクリスに喰らわした。驚いたことに、クリスは襲いかかって来るウィルを阻止することもなくなされるがままで、強烈なビンタの後も動じず「冗談だったんだよー」と終始笑顔で通したのだった。ジョークがいいか悪いかは別にして、私なぞは彼は根っからプロのショーマンだといたく感心してしまった。普通、憤慨したり動じたりするやんな？

一方、ウィルの方はビンタしてもまだ気が収まらないらしく、客席に戻ってからも放送禁止用語とともに「俺の妻の名前をその汚らしい口から発するな！」と二度絶叫した。えらいこっちゃ、生放送やで!! ウィル、やらかしたな・・・

さて、世界中でもそうであったようにトルコのニュースチャンネルもこの話題で持ちきりであった。あるニュース解説番組では、トルコ人の99.99％がクリスは張り倒されて当然だと思うだろうと話されていた。トルコ人の夫フローラにも訊くと、「よその奥さんに絡むなんて、どつかれて当然やろ！」という返事が返ってきた。なるほどな、トルコ人男性の代表意見である。そもそもトルコでは、よその恋人や奥さんに対して何か言うことは、特に容姿に関わることを発言することは、良い意味であっても絶対にご法度である！もしもあなたが男性なら、トルコ人のご友人の奥様が美しいと思っても、決してそれを口に出して褒めてはいけないので、お気をつけあそばせ。相手のトルコ人男性は間違いなく気分を害するだろう。俺の女に気があんのかお前、あん？！と誤解するのである。すなわち、男の沽券に関わるのだ。自分の女に何か言われること＝自分もコケにされること、なのですな。だから、奥さんの身体的なことをジョークのネタにされて怒り狂ったマッチョ、ウィルの気持ちはトルコ人男性には容易に理解できるという訳である。

ここで、私は自分に置き換えて妄想してみる（なんでやねん）。私は小さい頃から頭の薄毛に悩んできたので、ジェイダの気持ちがよく理解できるからだ。例えば私の薄毛がどうしようもなく進行して、もう頭を剃るしかないところまできて潔く坊主頭になったとしよう。そして私も女優で、これも日本を代表する俳優の夫フローラと一緒に日本アカデミー賞授賞式に夫婦で出席したとしよう。突然司会者の草なぎ剛君が坊主頭の私に向かって、「Yeni.さん、『西遊記』パート2、楽しみにしてるよ！」と言ったら気分を害しただろうか・・・。そこでフローラがもし激昂して、剛君とこまで行ってビンタかましたら、私は喜んだだろうか？（一体どんなシュミレーションやねん）

私なら、フローラが登場するまでもなく、当事者の自分で「悟空、冗談が過ぎます。“きんこじ”（悟空の頭にはめられた金の輪っか）締めましょうか？お釈迦さまにも言いつけますよ」とか、何か気の利いたジョークで剛君に対抗したかった。とっさにそんな機転が効けば、の話だが。

結局のところ、ジェイダと同じく髪に悩む女性として、クリスのジョークはそんなに酷いものだったと私は思わなかったし、ジェイダにも黙ってないで自分で何か言い返して欲しかった。てか、ジェイダは旦那ウィルに怒ってたんちゃうん？だってウィルは最初大声で笑ってたし。ホントに奥さんのこと思って怒ったのなら、普通あんなに笑うか？最初は大受けしていたウィルがなぜ数秒で豹変したのかについては、最初はウィルもジョークにバカ受けしていたのに同時に自分もコケにされてることに急に気づいたか、ひょっとすると彼はあの時すでに出来上がっていたのではないか、という疑惑も残る。身体的な内容のジョークを言ったクリスも要らんこと言いだが、暴力ふるったクリスはもっと大人気(おとなげ)ない。それこそウィルも、何か痛烈なジョークで持って言葉でお返ししていたら、彼の株はグンと上がったのに。ウィルは大暴れの後も最後まで授賞式に出席し続け、最後は主演男優賞もきっちり貰ったというあの中継は、ある意味“自分の女に要らんこと言われたら、鉄拳ふるって当たり前、それが男たるもの”、という暗なるメッセージにも取られかねない気がしたのは私だけか。なんかマッチョ肯定で嫌なんですけど（アカデミー協会側は事件直後ウィルに授賞式退出を求めたらしいが、ウィルは拒否）。

授賞式翌日、ウィルはSNS上でクリスにごめんと謝罪したらしいが・・・。