関西人Yeni.の横から失礼します。vol.46
去る3月31日の夜一切ニュースを見ずに床に入り、翌日4月1日の朝起きて初めてその結果を知った人は、エイプリルフールの冗談ですか？！と俄かには信じ難かったに違いない。そう、昨年2023年トルコ大統領選挙・総選挙で誰もが（少なくとも私の周囲では）期待していたことが（ 結局不発）、思いがけず今回の地方選挙で実現したと言うお話である。
簡単に言えば、万年野党第一党だったCHP（共和人民党）が、22年間政権を握り続けている与党AKP（公正発展党）に対してトルコ全国の得票率で勝利し、ついに地方行政で最優位に立ったのだ。
トルコ国土を横長の四角だと考えてみよう。上辺は黒海に、左辺はエーゲ海に、下辺は地中海に面しており、右辺は陸続きで中央アジアへと広がっている。
さて、万年野党第一党CHPが票を取れるのはいつも大都市を中心とする、左辺と下辺の海沿いのみ。いわゆる世俗的なエリアだ。ところが、投票日当日の19時過ぎに開票速報が始まった時、左辺のエーゲ海沿岸から内陸部に向かって右へ右へと染まっていく赤色（＝CHP勝利県）の分布図を見て、一瞬それが与党AKP（こちらは黄色で表示）のもんだと勘違いしたほどだ。まさに、沿岸部から立ち上がった高波が、やがて津波となって国土の奥深くまで到達したのだった。
そして時間は経過し、CHP率いる現職市長たちの勝利宣言が続いた。CHP新党首の涙を堪えた勝利宣言には、私ももらい泣きしてしまった。
では投票率はどうだったか。地元メディアによると今回の投票率は78.11％と私に言わせれば依然高いが、それでも前回の総選挙投票率が88.92%であることを考えると、1割もの落ち込みである。投票に行かなかった有権者が800万人以上いるようだ。
「どうせまた負けるんやろ？行っても一緒やん。何も変わらへんし」。前回の総選挙結果から来る各野党への不信感か。あるいは、「ええことしか言わへんけど、こんなド貧民集団に誰がしてん？！」。低迷し続ける経済のせいで貧窮した生活から来る与党への抗議か。いずれにしても、国民の多数は度重なる選挙の度に裏切られ、落胆し、疲弊し、失望し、怒っている。
そんな時、真っ暗闇に突然光が射し込んで来、現状が引っくり返ったのだからトルコ国民総びっくりである。まさに歴史が動いた瞬間を見た気がした。
〜ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。 よどみにうかぶうたかたはかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。〜（『方丈記』より）
かつて学校の日本史や世界史の授業で習った先人たちの長い長い歴史は、どれも数百年単位で纏められていて、あたかも次々に国が存亡し政権が変遷したかのように思えたが、実際その渦中にある我々のような一般ピープルにとっては・・・変化するまで長すぎんねん！時間掛かり過ぎやねん！！
一方、敗北して地方行政で二番手に後退してしまったこの国の王様は、それでも支持者の前で、選挙結果を検証して自己省察をすると演説した。
〜祇園精舎（ぎおんしょうじゃ）の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹（さらそうじゅ）の花の色、盛者必衰（じょうしゃひっすい）の理（ことわり）をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂には滅びぬ、偏（ひとえ）に風の前の塵に同じ。〜（『平家物語』より）
国民が発したメッセージを、為政者がどれだけ真摯に受け止められるか。それが、2028年のトルコ大統領選挙・総選挙の行方につながるのは間違いない。さあどうする、王様？
それにしても、万年野党第一党CHPオゼル新党首の勝利宣言は素晴らしかった。2023年の大統領選挙・総選挙で敗北し、党が新体制を迫られた中で選出された若きオゼル党首が､旧体制にしがみつく年寄り幹部らを我が身を切られる思いでバッサバッサ切り捨て、女性登用を含む能力ある若手を多数採用したことも功を奏した。ここまで来るのに各方面からいっぱい恨まれてさぞ風当たりがキツかったろうに、と急に老け込んだ彼を見て思った。産みの苦しみから歴史的な勝利を手にしたオゼル党首は、勝利宣言の最後に支持者に向けてこう言った。
「僕らはCHPとして新たな一歩を踏み出します。（−中略−）そこで皆さんにお願いがあります。（与党には）今まで負かされっぱなしでした。僕らはその度にコケにされ、笑い者にされて来ました。でもかつて僕らが味わった辛さを、（与党とその支持者）に対して絶対にやり返さないこと、その責任が僕らにはあります。誰も悲しませず、誰も馬鹿にせず、誰のことも揶揄しないで下さい。お願いです。謙虚さという高貴な姿勢が、勝利につながるのです」シビレた。ええ男や！
[email protected]
@yomikiriistanbul
@torukohitokomagekijou
読み切り！［イスタンブール］
トルコでこどもを育てています。
