関西人Yeni.の横から失礼します。vol.8

2021.06.15Naviコラム

Istanbul Navi 2021年6月号

トルコの巷では、このところ一気にワクチン接種が進んでいる。2021年1月に保健相への接種を皮切りに、第一優先グループである医療従事者からスタートした後なかなか進まなかった感があるが、現在では45歳以上の接種が始まっていて、６月14日からは40歳以上も開始予定だ。早いッ！

ちなみにトルコで採用されているワクチン(または採用予定のワクチン)は、中国製のシノワックとドイツ製（アメリカ・ファイザー社との共同開発）のバイオンテック（トルコ語ではビオンテックと発音）、更にロシア製のスプートニクがある。スプートニクなんて、打ったらいきなり覚醒しそうなイカつい名前だが、私の周囲でスプートニクを接種したという人はまだいない。そういう私も、ありがたいことにすでに1回目のワクチンを接種したが、その際トルコ保健省のワクチン接種予約サイト（これがなかなかよく出来ている）にも、スプートニクの選択肢はなかった(スプートニクワクチン第一陣は、6/14にトルコに入荷された)。あったら選んでたか、って訊かれると…… ポリポリ。トルコ政府はすでにスプートニク購入契約を済ませているが、そのうち国内でも当該ワクチンの製造を開始するらしい。国民8,700万人総覚醒。（冗談ですぅ）

ここで「ワクチン接種、私の場合」をお伝えしよう。私はベシクタシュ区の国立病院で接種した。日曜日のせいか大勢の市民が詰め掛けていたが、非常に整然とワクチン接種が進められていて大いに感心した。病院入口でワクチン接種で起こり得る副作用の説明が記載されているフォームに日付とサインを記入した後、保健省国民健康管理システムが一人一人に発行するヘスコードを提示して、機械による自動検温後、院内に入る。接種室の前で5分ほど待機しただろうか、あっという間に名前を呼ばれて入ると看護婦さんが二人。こんなこともそうそうないだろうと、思わず看護婦さんに、

「あのー、私が注射されてるとこ、記念に写真に撮ってもらえませんかね…… エヘヘ…… 」

と訊いたら、ピシャリと断られた。

「前にそれやって、色々問題になったのよ。だからダメ！（キッ）」

あ、そうなんですか…… 。チェッ。

看護婦さんはとても注射が上手で、全く痛みを感じなかった。翌日に、軽い腕の痛みと首・肩の凝り、関節がたまーに冷えで沁みるような感覚、そして軽い頭痛があったが、翌々日には痛みはほとんどなく、就寝前に軽い頭痛がした程度だった。

ところで記念写真を諦められなかった私は、接種後に定められた15分の待機時間に入口近くの待合席に座って、ぶっとい腕の患部を手で押さえてポーズを取り、人目など気にせずセルフィーでなんとか撮影に成功した。なに、この嬉しそうな顔は！

実はワクチン接種日には、午前中に家族の大きな行事があった。息子ポケモンのトルコ現地高校受験日だったのである。トルコ語で高校受験はLGS（レーゲーセーと読む。トルコ語で「高校進学試験」の頭文字を取ったもの）と呼ばれており、一回コッキリのセンター試験が全国で実施され、そこで出た点数をもって進学出来る高校が決まるという心臓に悪いシステムだ。若年層が多いトルコ、去年も今年も100万人以上が受験したという。ヒェ〜！内申なんて、ほとんど加味されていないのではないだろうか?! センター試験発表後、各学校が出願を受け付ける募集人員数と最低点数ラインを発表する。公立も私立も一緒くたである。それを見て、生徒は希望する高校にそれぞれ出願するのである。定員割れすれば二次募集、三次募集と続くので、進学先が決まるのはまだまだ先だ。ああ、やっぱり心臓に悪い。結果発表は6月30日。インシャッラー（アラーの思し召しがあれば）、ちょっとでもいいとこ行けますように！

LGS当日、トルコの親は必ず子どもに同伴して試験会場に出向く。そして、終了するまでずっとそこで待つのだ。高校受験だけではなく、大学受験でもそれは同じ。夫フローラに、

「フローラも大学受験の時、両親ついてきたん？」

と訊くと、

「当然やろ?! 試験会場の校庭でずっと待っててくれたわ。弟も来てたんちゃうかなぁ」

やっぱり家族総出の、一大イベントなのだ。私など、自分の受験を思い返してみても、いつも一人か友達と一緒だった。親なんて、どこにいた？その辺が、日本とトルコとは全然違う。

ところが昨年と今年のLGSは、パンデミックのため試験会場に入ったり待機したりすることは一切禁止なので、親は仕方なく送り迎えだけをするに至ったようだ。試験当日の朝、予想通り試験会場である学校の校門前はトルコの親でひしめき合っていた。激励をとばす親、子の両頬にぶっちゅーっとキスする親、抱き合う親子……などなど熱い場面が繰り広げられていた。私らも…… と思っていたのに、

「ほな、行ってくるわ」

とポケモンは素っ気なく、あっという間に校内に消えて行ったのだった。思わず、

「頑張りや！」

と叫んでしまった。あ！頑張れって絶対言わへんつもりやったのに、私が動揺している…… 。

ポケモンを送った後、車でフローラと帰宅途中のことである。

「あんな小さかったあの子が、高校受験やもんなぁ…… 」

しんみりと、フローラが呟いた。あかん、と思った瞬間今までのことを色々思い出して涙が止まらなくなった。やめてよ、ちょっと！フローラも目をこすって泣いていた。二人で感傷に浸っていたら、急にフローラが、

「（クンクン）なんかええ匂いする…… 」

パン屋の前を通り過ぎた時だ。すぐに車を停車させ、彼は焼きたてアツアツのパンを買って嬉しそうに車に戻って来たのだった。なんやの、ホンマ！人を泣かせといてその変わり身の早さは!!

…… あ、私チーズパンな。