関西人Yeni.の横から失礼します。vol.4

2021.04.15Naviコラム

Istanbul Navi 2021年4月号

今年もやって来た、“11ヶ月のスルタン(皇帝)”とも言われるイスラム教の神聖な断食月・ラマザン。アラビア語ではラマダン（ラマダーン）と呼ばれていてこちらの方が日本では周知されているが、トルコ語ではラマザンと言う。太陽の昇る前の夜中に起き出してサフルと呼ばれる軽食を摂って再び就寝し_{ウップ……}、太陽の出ているうちは一切の飲食を断ち_ヒィ〜、日没と共に今度はイフタルと呼ばれる断食明けの食事を摂るのだ絶対ドカ食い。聞くだけで精神的にも胃腸的にもハードであるが、トルコ人の夫フローラの家族初め親戚で断食をする人が殆どいないので、私自身この行事にあまり馴染みがない。昔一度だけイフタル食事会にお呼ばれすることになり、この日だけは参加者と同じ気持ちを分かち合いたいと断食してみたが、食べられないことより水分を摂れないことが非常に辛く、毎年30日間もこの苦行を続ける人々に頭の下がる思いだった。子どもの頃から断食を続けている人たちは、最初の数日は辛いけれどその後は慣れると言うが、エネルギー補給が出来ないのだから当然活動量も減少しがちになる。ちなみに毎年断食をする友人とは、この期間はまず会えない。彼女は彼女で飲まず食わずなのにとても人に会う気にならないだろうし、私は私で彼女に会ってもお茶も飲めへんし！

ところが一昨年のラマザン月、メトロビュス（専用道路通行バス）であまりの空腹に車内でサンドイッチを頬張った瞬間、隣の乗客の冷た〜い視線を感じて「モゴ……」となりながらぐいっと頭を捻ったら、もっと先に座っていた不愉快極まりない表情のおじさんとモロに目が合って、今度はあさっての方向に更に首を捻って「んぐぐ……ゲボッ」とサンドイッチが喉に詰まって窒息しかけたアホがいた（このアホは私です）。当然だが、断食中の人々の前で飲食をするなどもってのほかである。

昨年2020年のラマザンにはすでにパンデミックが始まっていたから、ラマザン行事も例年ほど盛り上がらずに終わった感がある。なぜなら日中飲食を制限された人々の唯一のお楽しみが、日没後のイフタルで家族や近しい人々といつもより豪華な食卓を囲むことなのに、外出禁止令は出るわ、飲食店は接客業務を禁止されていて外食イフタルは出来ないわ、おうちイフタルをするにも家同士の行き来や人が集まること自体がおおっぴらにはご法度だわと、断食明け時間も制限だらけだったからだ。そして今年のラマザンでも飲食店の接客営業は再び禁止になり、家庭訪問や集団イフタルも避けるよう政府当局から注意喚起がなされた。大人数でワイワイ楽しくご飯を食べてなんぼ！のトルコ人にとって、なんと辛く寂しい日々であろうか。

そういう私も断食こそしていないが、今や食べることしか楽しみがない。ラマザンと言えば「ラマザン・ピデスィ」(写真左上）という季節モノの大きなカリッともちもちパンが出回るし、「ギュッラッチ」（写真右）というユフカ（トルコの甘くない極薄クレープ）に牛乳と砂糖と薔薇水を吸わせた湯葉のようなあっさスウィーツにもトキめく（注：薔薇の味と香りが苦手な方にはローズウォーター無しバージョンもあり）。スウィーツといえば、トルコのラマザンのイフタルでは中東諸国産の輸入干しデイツ(写真左下）を食事の最初に頂く習慣があるが、私のおススメはトルコ黒海沿岸地方トラブゾン産の干し柿で、デイツよりもっと大きくて肉厚な日本の干し柿と似ている。これを二つに切ってピスタチオ入りビターチョコレートをサンドし、かぶりつくのだ。友人曰くバターやクリームチーズでも合うとのことだったので、バターとクリームチーズとピーナッツバターとカイマック（牛乳を加熱した時に出来る脂肪膜）まで一緒くたに挟んでかぶりついて、「オエッ……」となったアホもいるという（このアホも私です）。

…… 全然関係ない話に脱線したが、ラマザンに本題を戻そう。過酷な断食によって免疫力が落ちて病気にならないよう、敢えて断食をしない選択をしたイスラム教徒も多いのではなかろうか、と私は勝手に思っていた。ところが、ラマザン直前にトルコ宗教庁長官が「『ワクチン接種は断食に差し支えるか』（Yeni注：断食中体内に水分を入れるのは罪かという意味だろう）との質問が信者から多く寄せられたけど、ワクチン接種によって断食がパァーになることはないので安心して断食してね❤️」と発表した。信者の心配のポイント、そこっ!? 敬虔なイスラム教徒は100年に一度の世界的な感染病に対しても、不屈の精神でもって断食を敢行する決意なのだ！