関西人Yeni.の横から失礼します。vol.18

2021.11.16Naviコラム

Istanbul Navi 2021年11月号

昨今トルコでは、過去に2回ワクチンを接種して6ヶ月が経過した18歳以上の全市民が、いよいよ3回目のブースターワクチンを接種出来ることになった。私の場合は、来年1月頃に予約受付が開始されるはずだ。この国、パッと見はすっかり日常生活が戻ってきたけれど、まだまだ感染状況に予断がならないし、抗体をキープして感染しにくい状態をなんとか維持したいものである。

さて、通常生活といえば習い事だ。パンデミックが始まってからというもの、お教室といわれるものほぼ全てが閉鎖されてしまい、大好きなフラメンコはもちろん、近所の自治体が運営するカルチャーセンターも活動が長く中断されていた。それがこの秋から、再び講座開講！やった‼︎ それでもまだ私の通っていたフラメンコ教室は始まらないので、この2年間の極度に閉鎖的な生活の反動もあってか当面は全く違うことに挑戦してみることにした。それは、演劇とギターだ。演劇は全く眼中になかったのだが、お目当ての声楽講座が今年は開講しないことがわかり、それなら歌のように大声を出して自分を表現する演劇ならスカッとストレス発散も出来るしトルコ語の訓練にもなって一石二鳥かもしれない！元来、目立ちたがり屋である。小学校の頃、全校集会で体育館の舞台に上がってピンクレディーを踊ったぐらいの度胸はある。ギターはというと、元々息子ポケモンのために購入したのだが、彼は数ヶ月習った後やめてしまい、ほぼ新品のギターだけが寂しく埃をかぶっていたのだった。何か楽器をやりたい、ならばやったことのないギターにしよう。そんな動機だった。

演劇とギターが始まると、私の日常が急に忙しくなった。それぞれ3時間で週6時間を費やし、さらに毎週課題が出る。特に演劇は、古代ギリシャ時代の演劇について各自調べてきたものを出し合って討議したり、古今東西の演劇脚本からモノローグ（相手なしに一人で言う長いセリフ）を一つ選んで暗記し、舞台に立って一人ずつ独演しなければならない等々、かなり本格的な活動なのである。このモノローグ発表で光っていたのが、60代前後の受講生、つまりアラカン女子達だ。5分以上のセリフをほぼ完璧に覚え、役になりきって見事に演じていた。これだけのセリフを暗記するのに、一体どれだけ練習したのだろう。しかも、小道具まで持ち込んで真剣に演じている彼女らってすごい。

一方、ギターでは音符の読み方など基礎の基礎からやるため、ノートを取ることが多い。講座で仲良くなったアラカン女子達にノートを見せてもらうことがあるが、皆なんて字が綺麗で読みやすいのだろう。私の義理の母も60代で字も綺麗だが、やることなすこと全てが丁寧で生活全般が整っている。手抜きがないのだ。演劇にしてもギターにしても、授業開始20分前からきちんと着席して先生を待っているのは、決まってアラカン男女達だ。物怖じせず、発言も一番活発なのがこの世代。60代のトルコ人の友人オヤ美もその一人だ。愛国心が人一倍強く、トルコ共和国建国の父・アタテュルクの話になると首筋まで真っ赤にして熱く語ってくれる。知的で、真面目で、品があって、自分にも他人にも誠実で、きちんと躾けられてきた印象がそこはかとなく漂う。少なくとも、私の周りのアラカンはそうだ。一体なんなのだろう、トルコのアラカン達の人間力の高さは。その頃のトルコの学校教育の影響が大きかったのか、彼らが育ってきたトルコ社会の当時の土壌がそうさせたのか。

・・・と一人感心していたら、突然私にモノローグ発表の順番が回ってきた。モリエールの戯曲『守銭奴』から、単にセリフが一番短そうだったという理由だけで選んだ主役アルパゴンを1分足らず演じた。途中でセリフは忘れるわ、即興もいいところである。それでも周りのアラカン女子に、なかなか役に入りきっていたわねと褒められて恐縮していたら、先生が一言、

「Yeni.さん。男性は男役を、女性は女役をやりなさいって、僕何度も言いましたよね。アルパゴンは男です。よって、この独演は認められません。もう一度女性の役を探して、今週中にセリフを覚えてビデオに録画して僕に送るように！」

ガーン!!! せ、せんせ、『ガラスの仮面』^※の月影先生みたいに厳しーのねッ・・・ハイ、女ね、分かりました・・・(泣) 今度こそはと、シェークスピアの『真夏の夜の夢』の妖精パック役を演じて課題ビデオを先生に送ってから、自称・北島マヤは、はたと気づいた。妖精、性別ないやんか！

^※『ガラスの仮面』巨匠漫画家・美内すずえによる作品で1976年から連載が始まり、現在もなお未完。平凡な一人の少女・北島マヤが劇団「つきかげ」を率いる月影千草の指導の下、ライバル・姫川亜弓との葛藤を通して眠れる芝居の才能を開花させ、成長していく過程を描く。