関西人Yeni.の横から失礼します。vol.15

Istanbul Navi 2021年10月号

 

 

 

もう2年以上、日本に帰っていない(泣)。23年トルコに住んで、こんなことは初めてだ。日本があまりにも遠い。もちろん無理すれば帰国出来ないことはないが、日本で自由に動ける迄にあまりにも時間と手間と費用が掛かることがネックになって、これまで踏み切れずにいた。しかし10月1日から、日本政府が認定するワクチンを二回接種している海外からの入国者には、3日間の強制隔離の免除と自宅待機期間の短縮が認められることになった!何やかやと言いながら気がつけば2021年もあと少しだが、来年こそは日本に帰るハードルが更に低くなっていることを祈るばかりだ(大泣)。

 

 

さて。海外渡航から話題は変わり、今回は住居のお話である。築50年の我が家のあるアパートが、とうとう取り壊し・建て替えに向かって動き出したからだ。2012年に現与党の提案により、将来起こり得る地震に備えて、老朽化した建物を取り壊し、より安全な地盤整備と耐震設計に基づいた建築物への建替えを推進・支援する「Kentsel dönüşüm(都市再開発)」に関する法律が成立した。それ以来現在まで約10年に渡ってこの言葉をあちこちで聴いてきたが、我が家には一向に都市再開発の話が具体的に持ち上がることはなかった。ところが先日、突然都市再開発の話が降って湧き、ビル再建プロジェクトを持ちかけてきた工事請負会社の説明会に呼ばれてアパートの家主が一同に会した。このアパートを購入したのが2005年、イスタンブールでの都市再開発が活発化する前に私たち家族は別のアパートに引っ越したので、人に貸してからは自分のアパートに立ち寄ることも殆どなく、月日が過ぎてしまった。説明会で約10年ぶりにアパートの隣人たちに会ったが、ほとんど変わらない面々に懐かしさが込み上げてきた。ところで過去に何度かアパート自治会会議に参加したが、大家が全員揃うことなど一度もなかった。やはり、老朽化したアパートを何とかしたいという思いは皆同じのようで、初めて大家全員が顔を合わせたのだった。

都市再開発事業には、政府と民間工事請負会社からの補助がある。例えば、再建までの期間の仮の住居費(家賃)補助や、仮住居への引越し費用補助が出る場合がある。建物の大きさや条件にもよるが、運が良ければ一切工事費用を負担せず建て替えてくれる場合もある。これだけの費用の肩代わりをしてくれるのは、工事請負会社のメリットがあってこそ。つまり、工事請負会社は各階や最上階等に自分の物件を新たに確保して利益を得るというわけだ。更に、新たな建築法により5階建以上の建物にはエレベーターと非常階段を設置することが義務付けられている(我が家のあるアパートは7階建)。そこに工事請負会社のものになる物件が新たに加えられると、一世帯あたりの既存スペースが小さくなってしまうのは常だそうだ。今住んでいる家より狭くなる。でも、新築でより安全だ。都市再開発の内情とは、こういうことである。

随分と前置きが長くなったが、そんなわけで我ら大家達はアパートの都市再開発へ向けて本格的に検討を始めた。説明会では工事請負会社側と大家の間で揉めに揉めたが、今度は内輪で集まって意見を固めようと更に翌週会議を持つことになった。先の説明会でも思ったが、内輪の会議をしていてトルコの人々の話し合いの進め方がどうにもツボにハマってしまい、プロジェクトそっちのけで彼らの言動が面白すぎて聞き入ってしまった。そもそもうちのアパートの住人、キャラが立ちすぎである。「ワシは軍人やからな」から必ず話が始まる退役軍人のおじいちゃん、役所の立場から工事請負会社を糾弾する公務員のお兄ちゃん、異常に声がデカくていちいち人の癇に障る物言いをするおばちゃん(声がデカいのは耳の悪い家族の世話をしているためらしい)、一切表立って発言はしないが会議進行中に勝手に隣の人と話し込むおっちゃん、都市再開発に詳しい大学の教授とその妹(この妹の意味不明な発言がまた多い)等々。この「〇〇アパートの不愉快な仲間たち」、司会進行を妨げる、人の話に平気でかぶさってくる、人の話の腰をボキボキ折る、人の話に平然と割って入る、自分の言いたいことだけ喋りまくり、誰も発言者の話を聴いていない……。この収拾のつかない言い合いを切り盛りして采配するのは、並大抵のことではない。その点、若手の自治会長が上手に誘導してくれたのには感心した。もう一つ感心したのは、こちらも別の若い子たちに対してだ。事前に出されたみんなの意見をキチンとまとめて、パワーポイントでプレゼン資料まで作って説明してくれたのだ。建設的で無駄な話は一切しないし、だらだらと感情的に同じことを繰り返すだけの年配のおっちゃんやおばちゃんを叱咤しながら事実関係だけをクリアにして、アパート住民としてすべきこと、工事請負会社に要求・確認すべきこと、そして今後のアクションプランまで打ち出して、見事に会議を締めくくったのだった。奇跡のような展開!あんなにグダグダだったのに、不思議に帳尻が合うのがトルコ戦法の凄いところだ。特にトルコの若い子、あっぱれである!「老いては子に従え」という諺があるが、これはトルコでも充分一理あるなと独りごちた。

さて、我らがアパートの再建の行方や、如何に?!

 

 

ー了ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 読み切り![イスタンブール]/ トルコでこどもを育てています。

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