関西人Yeni.の横から失礼します。vol.10

2021.07.15Naviコラム

Istanbul Navi 2021年7月号

今年もまた、♪夏がくーれば思い出す…… ♪ 7月15日がやって来た。今年で早や丸5年、トルコでクーデター未遂の起こった日はその後、「7月15日民主主義と国民団結の日」と名付けられ、国民の祝日となっている。過去10年間でのトルコの大きな節目と言えば、2013年6月の「ゲズィ公園事件」と呼ばれる大規模な市民運動と、2015年7月のクーデター未遂、そして2018年6月の議会制から大統領制への移行である。これらを経て、この国の王様のポジションは確固たるものになったのだった。チーン。

あの日、夫フローラは仕事で県外に滞在しており、家には当時10才の息子ポケモンと私がいた。22:30頃だっただろうか、うたた寝していた私は電話の呼び出し音で目覚め、電話の相手から、イスタンブールに異変が起こっているんじゃないか、との知らせを受けたのだった。マジですか?! もちろん、ポケモンは爆睡中だった。寝ぼけなからも慌ててテレビをつけると、ボスポラス大橋(現在は「7月15日殉職者の橋」)で軍が戦車を使って道路を堰き止めている映像が写った。その頃トルコではテロ事件が頻発していたので、またテロ騒ぎか何かかな…… と呑気に思ったが、いつもと様子が違う。なんでこんなに沢山、兵士が出動してるんだろうか。ニュースにかじりついているうちに、どうやらクーデターが実行されつつあることを知ったのだった。クーデターて?! 長くトルコに住んで、それはそれは色々事件もテロも沢山経験したが、とうとうクーデターにまで遭遇してしまった！おかーちゃーーーん(泣)！

これからどうすればいいんやろ。クーデターって、これから政府要人が拘束されて、軍が政権握って厳戒令とか敷かれるんやろか。一般ピープルには危害加えへんやんなぁ？おおお…… (大泣)。ふと、ザワザワと人の声がするので窓から外を見ると、なんと家の向かいにあるキャッシュコーナーに大行列が出来ていた。先が見えないこの状況下、当面必要な現金を引き下ろしに人々が並んでいるのだった。さすが、クーデター慣れしているトルコ人。わ、私もお金下ろしに行こかな……。

「ババババババババババ！！！！！」

な、何？！B29襲来かッ(←知らんけど)?! 今度はいきなり家の上空を戦闘機が旋回し始め、窓はビリビリいうわ、家も揺れる気はするわ、このまま家ごと爆撃されるかもしれないと本気で思った。それほど恐ろしい大音響が長く続いた。我が家は第二大橋が近くにあり、軍の基地や国営放送局からもそう遠くない。反乱軍が占拠したポイントが近所だったので、ヘリコプターや戦闘機が一晩中ブンブン飛び回っていたようだ。ヘナヘナと腰が抜けて、廊下で「どーしょー！どーしょーーー!(＝どうしよう、どうしよう)」と喚きまくった。空から撃たれるかもしれないし、今キャッシュコーナーには行けない。もう窓のそばにも怖くて近づけない。はっ！食料は…… 現金は…… 。這いつくばって台所の冷蔵庫を開けると、空っぽ。カバンを開けて財布を見たら、スッカラカン。どうなんねん、私ら親子！(号泣)

「お母さん、どうしたん？ムニャムニャ」

私があんまり大声を出すものだから、ポケモンが起きてきた。

その後、反乱軍が国営放送局を占拠し、全権を掌握したと言うクーデター声明を局アナウンサーに朗読させた。一時は次の指令が出るまで厳戒令が敷かれると発表されたが、休暇中だったこの国の王様が危機一髪で反乱軍からの逃亡に成功、急遽イスタンブールに戻り、地元メディアと携帯電話の映像通話で繋がり、クーデターへの抗議を行うよう市民に外へ出るように呼びかけたのだった。ええ?! それ危ないやん！と思ったが、その辺りから形勢が一変し、翌日早朝にはあっけなくクーデターは鎮圧され、未遂となって終わったのだった。なんともショボい終焉を迎えたお芝居のような事件だったが、国を守ろうとする善良な市民251名が犠牲になり命を落としたことは、本当に残念でならない。

5年経った今、お陰様で家族元気に暮らしているが、毎年この日がくると、空っぽの冷蔵庫とスッカラカンの財布が脳裏によみがえる。何が起こるかわからないトルコでは、せめて数日の食料といくばくかの現金ぐらいは所持しておきたいものだ。